高麗陶磁 | 陶酔庵 -tousuian-

「高麗陶磁（こうらいとうじ）」とは、主に**朝鮮半島の高麗時代（918年〜1392年）**に製作された陶磁器の総称です。
この時代は、朝鮮陶磁器史上、最も高度で洗練された技術が確立された「黄金時代」とされ、特に高麗青磁が有名です。
高麗陶磁は、その独自性と芸術性の高さから、中国や日本の陶磁史においても重要な位置を占めています。

産地

朝鮮半島

器の種類 種類ごとの説明 器の種類の説明 陶磁器とは、陶器と磁器の総称で、粘土や陶石を成形し焼いた焼き物です。 一般的には、土器、陶器、炻器（せっき）、磁器の4種類に分けられます。 土器 陶磁器の最古の形態で、素焼きの器物です。可塑性に富む粘土を原料とし、縄文式、弥生式、土師器、須恵器などが挙げられます。 陶器 粘土（陶土）を主原料とし、比較的低い温度（900～1200℃程度）で焼成されます。吸水性があり、ぽってりとした温かみのある風合いが特徴です。 磁器 陶石（長石や珪石などの石を粉砕したもの）を主原料とし、高温（1300℃以上）で焼成されます。吸水性がなく、硬く、叩くと金属のような澄んだ音がし、透光性があるのが特徴です。 炻器（せっき） 陶器と磁器の中間的な性質を持ち、陶土より鉄分を多く含む粘土を使用し、比較的高い温度で焼成されます。吸水性が低く硬質ですが、透光性はありません。

陶器
磁器

主な特徴

高麗青磁（こうらいせいじ）

高麗時代に最も発達し、美術品として世界的に有名なのが「高麗青磁」

歴史と技術

成立: 10世紀頃、中国の宋（特に越州窯など）の青磁技術を取り入れて作陶が始まりました。
翡色（ひそく）: 12世紀頃に最盛期を迎え、朝鮮半島独自の、深く澄んだ美しい青緑色の釉調が完成しました。この色は、古来より珍重された宝石の翡翠に例えられ「翡色（ひそく）」と呼ばれました。

独自の装飾技法

高麗青磁は、中国の青磁には見られない、高麗独自の華麗な装飾技法を編み出しました。

象嵌（ぞうがん）: 陶磁器の世界では高麗が独自に発達させた技法です。素地に文様を彫り、その溝に白土や黒土といった色の異なる土を埋め込み、透明な青磁釉をかけて焼き上げます。これにより、釉薬の青緑色の中に、白や黒の文様（雲鶴文、菊文など）が浮かび上がる幻想的な美が生まれました。
辰砂（しんしゃ）: 銅呈色の顔料で文様を描き、焼成によって赤色を発色させる技法。当時の技術では発色が難しく、貴重なものとされました。

粉青沙器（ふんせいさき）

高麗時代末期から、次の李氏朝鮮時代（李朝）の初期にかけて主流となった陶磁器です。

特徴と歴史

母体: 高麗青磁が衰退期に入った後、青磁の技術を母体に誕生しました。
技法: 鉄分を多く含む鼠色の胎土に、きめ細かな白い化粧土をかけて装飾を施し、透明釉をかけて焼成します。白化粧で表面を覆うことで、手間のかかる青磁よりも大量生産が可能になりました。
多様な装飾: 象嵌のほか、印花（型押し）、掻落し（かきおとし）、刷毛目（はけめ）、粉引（こひき）など、白化粧を基調とした多様な装飾技法が発達しました。
日本での評価: 粉青沙器は、日本では「三島」「刷毛目」「粉引」などと呼ばれ、その素朴で力強い造形が日本の茶の湯（高麗茶碗）の世界で非常に愛されました。

白磁（はくじ）

白い素地（胎土）と透明な釉薬（うわぐすり）によって生まれる純粋な白色。

白磁の基本的な特徴

原料と素地（胎土）:
- 特徴: 素地の原料に鉄分などの不純物がほとんど含まれないカオリン（高陵土）や良質の陶石を使用します。
- 結果: 焼成後に白色またはごくわずかに青みや黄色みを帯びた白色の硬い素地になります。
釉薬（ゆうやく）:
- 特徴: 素地の白さを際立たせるために、主に透明な釉薬（長石と珪石が主成分）を使用します。
- 結果: 素地の白さがそのまま活かされ、ガラス質に覆われた光沢のある滑らかな肌合いになります。
焼成温度:
- 特徴: 非常に高温の約 1250°C 〜 1400°Cで焼成されます。
- 結果: 焼結が完全に進み、吸水性がほとんどない硬質な焼き物（磁器）となります。焼くと「チーン」というような澄んだ金属音がします。
用途と美意識:
- 特徴: その清廉な美しさから、宮廷や知識階級の器として珍重されました。
- 結果: 形状はシンプルで整ったものが多く、装飾の派手さよりも、形、釉調、質感といった本質的な美しさが重視されます。